むらら図書館長「村正」
by muramasa666
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物語 『何も解決はしていない』

無気力というのは、どの人間にもあるものである。
多かれ少なかれの差はあれど確かに存在する。

ただ、彼の場合は少し度を過ぎていた・・・。


彼は面倒くさがりだ。
怠惰というわけではない。
『どうでもいい』のだ。全てが。

自分に害をなさないのなら隣人が殺人鬼でも構わないだろう。
相手から求めてくるならば、それなりに対応する。しかし離れるならば「勝手にしろ」となるだろう。

「友人なんて色々と考えるのが面倒じゃないか」


たとえ目の前で人が倒れたとしても、
携帯で連絡することはあってもすぐその場から去るだろう。

「警察が来たら面倒じゃないか」



好きも嫌いもない。
楽しいも悲しいもない。

ある意味この世から断絶した生き方をしている彼。

神は彼を見かねた。
どうすれば彼はヒトとしての喜びを知るだろう。
いくら考えても答えはでなかった。


そして神はついに彼に話しかけた・・・


『少年よ、どうしてそんな生き方をする?』
「理由なんて特にないし、どうでもいいじゃないか」

『お前に大切なものはあるか?』
「そんなものはない」

『ならばお前に授けよう、ヒトを慈しむ心を』



その日から彼は変わった。
常に周りに配慮をし、困った人がいれば進んで対処をし、
時には笑い、時には涙した。
すべての人間に同じだけの慈愛を注いだ。

誰もが彼を愛した。

彼も誰もを愛した。



彼の両親も安心をした。
これで彼も普通の人として暮らせるだろう。

神も安心をした。
これで彼も人として幸せな一生を過せるだろう。


だが誰として気付いてはいなかった。
全ての人間に平等に付き合うということの意味。
それは以前の彼と同じ、全ての人間と距離を置くということだ。


つまり、・・・何も解決はしていない。



その後、彼は多くの人間に見守られ息を引き取ったが、
それが彼の幸せであったかどうかは誰にもわからない。
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by muramasa666 | 2006-09-30 00:50 | 五階 『ものがたり』

黒いコートの男と人形

どこかの国の、どこかの町の、どこかの裏路地に、男が倒れていた。
黒い帽子、黒いコート、黒いカバン、黒尽くめの男が倒れていた。

「おじさん、しんでるの?」
「死んでる」

「しんだヒトはへんじはしないわ」
「じゃあ生きてる」


「"いきだおれ"なの?」
「まだ死んでないから行き倒れじゃない」

「じゃあそのままだとしんじゃうの?」
「このままだとそうなるかもな」

「まってて、なにかもってきてあげる」
「・・・ああ」


しばらくすると、少し土のついたパンを男は手にしていた。
急いで持ってきたのだろう、見れば膝が擦り剥けている。

男は目頭が熱くなるのを堪えながら、何も言わずにそのパンを頬張る。


「ありがとう。何かお礼をしなければいけないね」
「おれいなんていらないわ」

「そうはいかない、礼を尽くされればそれは返さなければならない」

「そうなの?」

「そうなの」


男はカバンを探る。
しかし餓死寸前までいった男のカバン。
金目のものが在る筈もなく、あるのはただのガラクタばかり。


「むりしなくていいよ?」
「いいから、もう少しだけ待っててくれ」

暫くすると、男はカバンから人形を取り出す。

「そのおにんぎょう、とってもきたないわ」

着ている白のワンピースは黒く汚れていた。まるで持ち主のようだ。

「確かに汚いかな、だがコイツはこれでいいんだ」
「あらわないの?」

男はわずかに頷く。

「この人形はできるだけ昔のままにしておかなければならないんだよ」
「どうして?」


「洗ってしまえば、過去すらも洗い流してしまうかもしれないからね」
「かこってなぁに?」

「昔のことだよ」
「むかし?このおにんぎょうには、なにがあったの?」


『聞かせてあげよう。小さなお嬢さん
 ・・・この"人形"のお話を・・・』






人形はとあるおもちゃ屋に売られていた
それを買ったのは、おもちゃ屋には似つかわしくない中年の男
娘の3才の誕生日でねと、馴染みがあるのかその店の店長と楽しそうに談話をしていた

やがて人形は綺麗な箱とリボンに彩られ、あとは娘の手に渡るのを待つばかりとなった


その帰りの暗い路地、男は通り魔に腹を刺され、もみ合いになって運河に落ち、人形と共に二度と家に戻ることはなかった



「その人形がコイツというわけさ」
「でも、とっても"きぐう"ね」

「ほう?」
「わたし、きょうで9さいになるのよ」

「それは丁度良かった。ならば俺からの誕生日プレゼントだよ」
「うん!ありがとう、おじさん」

「・・・あ、一つ忘れていたよ」
「なぁに?」

「その人形は、このカードとセットなんだ」
「かーど? おたんじょうびについてるの?」

「そう、大事な大事なカードだ」

男は再びカバンに手を突っ込む。
やがて小さなカードを差し出す。

紙は皺くちゃ、文字のインクは滲んでいたが何とか読めそうだった。



エルへ

3さいのおたんじょうび おめでとう

                       パパより



「・・・あれ、わたしとおんなじなまえ。
 ねぇおじさん、これってもしかして―」


エルが顔を上げた時には、男の姿はどこにもなかった。

「黒いコートの男とカード」
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by muramasa666 | 2006-09-21 20:51 | 五階 『ものがたり』

彼女と彼の物語

ミクシィで書いてたものをこっちでも公開。
ぶっちゃけ自己満足モノなので出来はお察しそれなりです。

そのことを踏まえて、お読み下さいな。





第一話 『彼女と彼のプロローグ』


彼女には美貌があった 誰もが振り返るほどの
彼女には財産があった 一生を三回遊んで暮らせるほどの
彼女には地位があった 王すらも彼女を無視することはない

なにもかもがあるかのように見えた彼女
しかし彼女には一つだけ無いものがあったのだ・・・


薄暗い部屋片隅 そこにぽつんとあるベットが彼女の寝床
日の光が浴びるのは 一日のうちのわずかな時間
彼女にはその時の景色を見るのが大好きだった


人はみな命というコップの中に時間という名の水を溜め込む
彼女は・・・そう彼女は そのコップが人より小さい
あまりにも・・・小さすぎる


ずっと生活の大半をベットの上で過ごす彼女
ずっと外の世界を知らない無知なる彼女
ずっと死を見つめ続ける彼女


彼女は病に侵されている
治す術はない
もう既に手は打ち尽くした
その処置はいずれ来る死神の来訪をほんの少し先に伸ばしたに過ぎない
時間が、時間が彼女には欲しくて欲しくてたまらなかった


可愛い彼女
無垢な彼女
可哀想な彼女


そして幾日も過ぎ去ったある日のこと
彼女は自分の死期を悟ったのか 彼女の使用人の男にあるお願いをする

「私、生まれてから今日まで外の世界を知らないの」
「だから私を世界へ連れ出して?」
「・・・ね?」


かくして彼女と彼は旅に出る
残り少ない時間を せめて彼女の望むままにするために


翌日 彼女が部屋に居ないのに気付いた彼女の父親は
消えた使用人を指名手配する

「娘を拐かした、あの男を見つけるのだ!
 死体でもいい、私の目の前に連れてくるのだ!」












第二話 『彼女と彼の四人の男』


彼は彼女の事が好きだった
彼は彼女の力になりたかった
彼は彼女の家に追われてもそうしたかった

彼にとって、彼女が世界の全てであったのだから

彼女の家を出て三つ目の分かれ道 二つ目の町 一つ目の夜に
彼らの部屋に数人の男が押しかけた

「お嬢さん あなたのお父上がお待ちです
 さぁ我らと共に家に戻りましょう」

小枝のように細く、絹のように白い彼女の腕を男が掴む
嫌がる彼女を彼が庇う

男たちはナイフを取り出し彼に突きつける
彼は彼女の手を引き、男たちの脇をすり抜ける
男たちはナイフを彼に投げつける

一本、二本、三本・・・

四本目のナイフが彼の腕に刺さる

彼は足のもつれる彼女を抱きかかえる
彼は彼女の為ならこの場で死んでも構わなかった
彼にとって彼女が世界の全てであったから・・・

赤い血痕が行き着く先は町外れの教会
彼は追って来た男と対峙する
彼の武器は逃げる途中で拾った木の枝

それを見て笑う男たち

一人と四人は 一人と三人に
一人と三人は 一人と二人に

やがて立ち尽くすのが一人になった時
彼女が一人に駆け寄る

嗚呼・・・血溜まりは今もなお広がり続けている
嗚呼・・・東の空に明るみがこぼれ始める
嗚呼・・・やがて昇る日は彼女と彼と、四人の男の死体を照らすだろう














第三話 『彼女と彼の海』


彼は彼女を愛していた
彼女も彼を愛していた
恋する二人の行方は知れず、ただ時間が過ぎ行くのみ


彼が二十と六人目の刺客を殺した日

「晴れた日の星は、本当に綺麗ね」
「もう少し季節が過ぎれば別の星が見えるさ」

「雨の日は憂鬱だわ、何でもいいわ何か歌って頂戴」
「いいとも、君が気に入るといいのだけど」

「くもりの日は海が見えないわ、どうにかならないかしら」
「耳を澄ませてごらん、波音が聞こえるだろう?」


・・・。

・・・・・・。


彼女が三十と一つの朝日を迎えた日

「あなたは私の奴隷なの?」
「僕は君の使用人、奴隷ではないけれど似たようなものなのかもしれない」

「そう・・・でも私も似たようなものなのかもしれないわね」
「どういうこと?」

「私もあなたの使用人なのよ。奴隷でもいいけれどね
好きよ、大好き。私のご主人様」


・・・。

・・・・・・・。


彼女と彼に残された時間は―

「今日はあまり咳が出なかったわ」
「そうか、じゃあ今日は浜辺に行こうか」

「ちょっと今日は体調が悪いわ・・・」
「じゃあ腕を振るって僕が君のご飯を作ろう」

「・・・少し眠いわ」
「なら君が寝るまでずっと傍にいよう」
「それじゃ嫌。あたなも一緒に眠りましょう?」
「そうだね、そうしようか」



『約束よ?』



・・・。

・・・・・・。



彼は今日も花を摘む
この花は彼女にきっと似合うに違いない
それともこっちの方がいいかな
いやいや両方持っていこう どちらも似合うに違いない


「とうとう見つけたぞ小僧
 娘を返して貰おうか」


立ちはだかるのは彼女の父親
目には血を張り巡らせ、銃を彼に突きつける

彼の傍らには彼女の姿は無い

「娘をどこに隠した
 言わなければ殺す」

いや、言っても男は彼を殺すだろう

「さぁ言え!
 娘をどこにやった!」

彼は口を紡いだまま、何も答えない


銃声


男の耳には聞こえただろうか?
―かすかに寄せて返す波の音に

彼の耳には届いただろうか?
―愛しい彼女の呼び声に

「そろそろ答えたくなったか?」

両足を撃ち抜かれた彼は膝を折る
顔を俯かせたまま・・・

「彼女は・・・この先の海の見える崖の小屋にいる」

そうかと頷いた男は銃に込められた
最後の弾丸を彼の心臓にくれてやる

彼はその場にうずくまり、やがて動かなくなった

男は彼が動かなくなるのを確認すると
彼の言った小屋へと急ぐ

男が小屋で見たものは がらんと誰も居ないただの小屋
あの野郎 嘘をついたのか


いいえ彼はついてません


男は気付かない
小屋のすぐ傍の 花に囲まれた石に書かれた その文字に



『彼女と彼の―』



掠れた最後の文字は 二人にしか分からない

最終話 『彼女と彼のエピローグ』
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by muramasa666 | 2006-09-16 19:37 | 五階 『ものがたり』