むらら図書館長「村正」
by muramasa666
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黒いコートの男と人形

どこかの国の、どこかの町の、どこかの裏路地に、男が倒れていた。
黒い帽子、黒いコート、黒いカバン、黒尽くめの男が倒れていた。

「おじさん、しんでるの?」
「死んでる」

「しんだヒトはへんじはしないわ」
「じゃあ生きてる」


「"いきだおれ"なの?」
「まだ死んでないから行き倒れじゃない」

「じゃあそのままだとしんじゃうの?」
「このままだとそうなるかもな」

「まってて、なにかもってきてあげる」
「・・・ああ」


しばらくすると、少し土のついたパンを男は手にしていた。
急いで持ってきたのだろう、見れば膝が擦り剥けている。

男は目頭が熱くなるのを堪えながら、何も言わずにそのパンを頬張る。


「ありがとう。何かお礼をしなければいけないね」
「おれいなんていらないわ」

「そうはいかない、礼を尽くされればそれは返さなければならない」

「そうなの?」

「そうなの」


男はカバンを探る。
しかし餓死寸前までいった男のカバン。
金目のものが在る筈もなく、あるのはただのガラクタばかり。


「むりしなくていいよ?」
「いいから、もう少しだけ待っててくれ」

暫くすると、男はカバンから人形を取り出す。

「そのおにんぎょう、とってもきたないわ」

着ている白のワンピースは黒く汚れていた。まるで持ち主のようだ。

「確かに汚いかな、だがコイツはこれでいいんだ」
「あらわないの?」

男はわずかに頷く。

「この人形はできるだけ昔のままにしておかなければならないんだよ」
「どうして?」


「洗ってしまえば、過去すらも洗い流してしまうかもしれないからね」
「かこってなぁに?」

「昔のことだよ」
「むかし?このおにんぎょうには、なにがあったの?」


『聞かせてあげよう。小さなお嬢さん
 ・・・この"人形"のお話を・・・』






人形はとあるおもちゃ屋に売られていた
それを買ったのは、おもちゃ屋には似つかわしくない中年の男
娘の3才の誕生日でねと、馴染みがあるのかその店の店長と楽しそうに談話をしていた

やがて人形は綺麗な箱とリボンに彩られ、あとは娘の手に渡るのを待つばかりとなった


その帰りの暗い路地、男は通り魔に腹を刺され、もみ合いになって運河に落ち、人形と共に二度と家に戻ることはなかった



「その人形がコイツというわけさ」
「でも、とっても"きぐう"ね」

「ほう?」
「わたし、きょうで9さいになるのよ」

「それは丁度良かった。ならば俺からの誕生日プレゼントだよ」
「うん!ありがとう、おじさん」

「・・・あ、一つ忘れていたよ」
「なぁに?」

「その人形は、このカードとセットなんだ」
「かーど? おたんじょうびについてるの?」

「そう、大事な大事なカードだ」

男は再びカバンに手を突っ込む。
やがて小さなカードを差し出す。

紙は皺くちゃ、文字のインクは滲んでいたが何とか読めそうだった。



エルへ

3さいのおたんじょうび おめでとう

                       パパより



「・・・あれ、わたしとおんなじなまえ。
 ねぇおじさん、これってもしかして―」


エルが顔を上げた時には、男の姿はどこにもなかった。








「黒いコートの男とカード」


国から国への街道。
そこは見渡す限り人家の影もない。
―いや、もし見えていたとしても、この夜の闇では気付けはしないだろう。
黒いコートの男ならなおのこと・・・。


『相変わらず、あんなことを繰り返しているのね』

女の声、だが男は歩む足を止めない。
代わりに返事だけはしてやる。

「物は持ち主に返すべきだ、そうだろう?」
『そうね。でもどうして本当のことを言わないの』

「真実を受け入れるにはあの子・・・エル・・はまだ幼すぎる」
『でも子供には父親が必要よ』

男の足が止まる。

「言えというのか、お前は。
 あの子の、エルの父親は今も生きている、と」



黒い男と深い闇。
そこに降り立つのは・・・―白。



いつの間にか男の目の前には白のスカートの女が立っていた。


「幸せの嘘と、過酷な現実。
 あなたにはとって必要なのは嘘なの?」
「その幸せが嘘であっても、
 嘘とわからなければそれが真実となる」


「なら―」


そう、ならば・・・。


「私があの子に真実を伝えましょうか?
 父親は全世界の誰もが震え上がる犯罪者です、って」



運河に落ちたエルの父親は一命こそ取り留めたものの
自分の名前も歳も思い出せなくなってしまった
わけもわからないまま、町を彷徨っていると彼はある研究所に拾われた
研究所にとって行方不明扱いの彼は丁度いい実験体であった

そこで彼はある研究の実験体にされる
不老不死の研究材料に

実験は半分成功、半分失敗した

不老不死の研究は成功した―男は永遠にその体に時を刻むことはなくなった、しかし男の体には醜い手術の傷跡が残された
それが消えることは"一生"ない

同時に研究はある副産物を彼に与えた
並々ならぬ身体能力、そしてあと一つ・・・


男は研究所の全職員を殺害した


そして醜く頭部に残る手術跡を隠すために仮面を被り
行き着く先は光の差さぬ犯罪の奈落


その男の名は後にこう呼ばれた

―"仮面の男-persona-"―と





「言うのか?あの子に。それを」
「・・・できないわね」

あの笑顔を見てしまったからには・・・。

「嘘でもいいさ、ただ―」
「ただ?」



―あのカードに書かれていた文字(気持ち)、それだけは真実だ。



ええそうねと、女はスカートを翻した。
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by muramasa666 | 2006-09-21 20:51 | 五階 『ものがたり』
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